人間から本質的な感覚を奪う、つまり生物や人類としての長い歴史の中で身に着けてきた知恵を麻痺させるためには、専門化が最も効率の良い方法と言えるかもしれない。一人では誰も思いつかないような破壊や、未来の生物や人類に大きな損害を与えてしまうような科学の悪用も、その作業に従事する人たちを専門化、細分化することで、人間の「良心」を踏み越えてその方向に動かしていくことができてしまう。
民族や人種というレッテルの強調も、人間を「良心」とは異なる方向へと導くことができる。民族だけでなく宗教や、同じ宗教でも宗派に細分化することで、それぞれがそれぞれを排斥し、自らが安全なエリアを拡大することのみを行動の原理とさせてしまう。そのお互いを破壊する活動によって、その両方から、どこかの誰かが利益を得ていることなど、夢にも思わずに。
地球は太陽からのエネルギーを得て、自己増殖を繰り返す多様な生命を生み出し続けている。人間はその仕組みの一部を観察したり、再現したりすることはできても、システム全体を作り出すことはできないし、システム全体を把握することすらもできない。しかし、自分の行動がそのシステムに適っているかを知る機能を、実は人間は持っている。それは「良心」と言われる。
それは、この本が書かれた時代でも、2020年の現在でも変わらない。ビジネスの種として次々に作り出される新しいドグマが人々を惑わし、細分化していく。しかし、目の前の自然、人、生物、風土と自分とを、一つ一つ再び結び付けてみることから始めては、と思う。そこに本来の繋がりが生まれ、そこに地球、いや宇宙全体の生命システムとの接続が生まれる。そして、その繋がりの先は自分の中の「良心」が間違いなく案内をしてくれる。
おすすめの本
『宇宙船地球号操縦マニュアル』
バックミンスター・フラー(著) 芹沢 高志(訳) 筑摩書房